株式譲渡益課税の軽減税率

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株式譲渡益課税について、2007年末に廃止予定の優遇措置としての
軽減税率が、2007年末までに購入した株式については、
2008年以降に売却した場合にも適用される方向で

1年延長される方向で検討がなされているようです。

NIKKEI NET の該当記事へのリンクを張っておきます。
#例によって、数ヵ月後にはリンク切れしてるでしょうが、
#ウェブ魚拓によるリンクをこちらから閲覧可能です。

しかし、ここで私が気になるのは、
株式譲渡益に対する税率が10%と20%とのいずれが適切であるか、
ということではありません。

2002年12月末に廃止された源泉分離課税方式()のことを思い起こせば、
あくまでも譲渡益を課税ベースとした上での税率の違いにすぎず、
相対的な問題としか思えません。
少なくとも、個々の取引の損益分岐点に影響を及ぼさないのですから。

むしろ、私が気になるのは、
株式譲渡益課税の軽減税率について、「金持ち優遇」との批判があることです。

そのような批判をする人は、「株式投資は金持ちがやることであって、
"金持ち以外の人"は株式投資をしていない」と考えていると推測されます。
そのような考え方の人が現れる原因の一つとして、
現在の日本の株式市場の実情が"金持ち以外の人"に参入しづらいものであることが
あげられます。
現在の日本の株式市場における、"金持ち以外の人"にとっての参入障壁には
いろいろな要素があると思われますが、
その中でも最も直接的な障壁は、最低投資金額の高さにあるように思います。

つまり、個人株主の拡大のため1単元の株式数を引き下げた会社、
何らかの理由から積極的に株式分割を行った会社、
単に株価が著しく低迷している会社、などを除けば、
多くの会社の最低投資金額は、
"金持ち以外の人"が元本保証のない株式投資に振り向けられる金額を
遥かに超える金額であるということです。

特に、「銘柄の分散」とか「売買の時間的分散」とか言い出すと、
最低投資金額による制約が厳しくなります。

また、いわゆる短期売買(例:デイトレード)では
「単に株価が著しく低迷している会社」であっても、
潰れる前に買値より高く売ればいいのですが、
「長期的投資」とか言い出すと、多分そうした会社は対象外となるでしょう。

ゆえに、「貯蓄から投資へ」などと唱えて、
個人の株式投資を奨励するべきだと主張する人々は、
最低投資金額の引き下げをもっと声高に叫ぶべきと思います。
特に、「中長期的投資こそが投資であって、短期売買は投機だ」などと
主張する人々は、なおさらです。

その一方で、創業者や大株主の利殖が目的と噂される株式分割の
横行への反省からか、
あるいは、取引所のシステムの処理能力に余裕が乏しいことを
小口投資家(ここでは注文1回の売買金額が小さい投資家のことであって
資力の大小ではありません)に責任転嫁しているのか、
証券取引所側には、最低投資金額が5万円以上であることを
望ましいとする立場が強いようです。
特に、最低投資金額が1万円以下となるような株式分割には否定的です。
参照:東証「上場制度総合整備プログラム」の策定について

ですが、株式の電子化が貫徹された後は、
株式分割から株券発行までのタイムラグを悪用した利殖目的の株式分割を
防止することも可能になると思われます。
ゆえに、「個人」(特に"金持ち以外の人")の
長期・分散投資の普及を望むのであれば、
最低投資金額が数千円という事態は、むしろ歓迎すべきであるように思われます。

確かに、会社側にとっては、単元株の最低投資金額の低下による株主数の増加は、
株主管理コスト(例:株主総会招集通知郵送費用・配当金送金費用)の増加を
招きます。
そこで、国会・政府・証券取引所当局は、
「個人」(特に"金持ち以外の人")の長期・分散投資の普及を望むのであれば、
証券会社経由での配当金の送金を容認するとともに、
単元未満株式(株主総会招集通知の送付は不要)の
株式市場での取引を容認するなど、
会社側の株主管理コストを増加させない形での最低投資金額引き下げを、
むしろ促進するべきと思われます。

にもかかわらず、最低投資金額を下げさせないようにするとは、
株式投資は金持ちがやることであって、"金持ち以外の人"は株式投資をすべきでないと、
考えているとしか思えません。

少なくとも、最低投資金額を下げさせないようにするべきという立場の人々には、
「株式投資は金持ちがやることであって、"金持ち以外の人"は株式投資をしていない」
との考えから、
株式譲渡益課税の軽減税率を「金持ち優遇」と評価する人々のことを
批判する資格はないように思えます。

#もし、知らない証券用語などがございましたら、検索サイトの類や、
#証券会社各社のサイトの用語集コーナーなどをご覧ください。

注:「2002年12月末に廃止された源泉分離課税方式」

私の理解が誤りでなければ、2002年12月末まで(約定日でなく受渡日ベース)の
株式譲渡益課税は、確定申告が必要な「申告分離課税方式」と
確定申告の不要な「源泉分離課税方式」との二者択一であり、
そのうちの源泉分離課税方式は、株式売却代金の1.05%を
源泉徴収される方式(課税ベースは譲渡益ではなく売却代金)でした。
ゆえに、確定申告をしたくなければ、
いわゆる「損切り」の場合でも「所得」税を納めるしかありませんでした。
なお、2002年12月末に源泉分離課税方式が廃止された後は、
申告分離課税方式に一本化されましたが、
証券会社に特定口座を開設し、源泉徴収制度を選択すれば、
確定申告をせずに済ませることも可能になっているようです。
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コメント(1)

株式譲渡益課税について、
2007年末までに購入した株式に限り、
2008年以降に売却した場合にも
軽減税率が適用される方向で検討されていたところ、
軽減税率制度自体が1年延長される方向に
変わってきたので、一部修正を加えました。

修正する前の、NIKKEI NET の該当記事へのリンクは、こちら です。
ウェブ魚拓によるキャッシュは、こちらから閲覧できます。

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このページは、村瀬 泰一が2006年11月23日 06:07に書いたブログ記事です。

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