司法修習二回試験、71人不合格

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司法試験にすら未だ合格していない私が書くのも何ですが、
今年秋に司法修習を修了する予定だった
司法修習生の方々のうち、71名の方々が、
俗に「二回試験」と呼ばれる司法研修所の修了試験
(正しくは「司法修習生考試」って言うんでしたっけ?)で
不合格だったそうです。

「47NEWS」の該当記事へのリンクを張ります。
ウェブ魚拓によるキャッシュはこちらです。

また、「時事ドットコム」の該当記事の
ウェブ魚拓によるキャッシュはこちらです。

今回、二回試験を受けられた方々(昨年4月に司法研修所に
入られた、いわゆる「現行60期 旧60期」)の大半は、
2005年 ?いわゆる「1500人合格」の2年目? において
司法試験に最終合格された方々です。

2005年に合格してない私が書くのも何ですが、
この年は司法試験の歴史において
(「新司法試験」は論外として除外すれば)
最も合格しやすかった年として
評価されることになりそうな年です。
#実際には、2006年には合格者が激減したとはいえ、
#受験者の大半が2005年の不合格者だったためか、
#論文試験の合格点はそんなには
#上がってないのですが…。
#なお、2006年より合格者がさらに減らされる予定の
#2007年については、まだ論文の結果が出てません。

しかも、1つ前の「59期」で16人の不合格者が出ていた
(しかもこれと別に91人が合格留保→追試→合格)
こともあり、
今年は二回試験の不合格者の大量発生が
予想されていたようです。
#ちなみに、今年から追試が廃止されたとか…。
59期の二回試験の結果についての
「47NEWS」の記事はこちらで、
ウェブ魚拓によるキャッシュはこちらです。
#なお、この記事は1月付けですが、
#これは追試の結果発表後だからです。
#59期で合格留保にもならずに
#二回試験を一度で合格された方々は、
#昨年10月から法曹になられているようです。
#上の59期の記事は、その辺の表現が不正確です。

さていよいよ、今年の11月だか12月だかには、
新1期 新60期(2004年春にロースクール既修者コース入学、
06年「新司法試験」合格)の人々の、
二回試験の結果が出るでしょう。

「新司法試験」は、ロースクールでの2年ないし3年の修学に
耐えうる経済力を有する人でないと
原則として受験資格を認められない試験です。
#それを「開かれた試験」と評する人がいるのは
#理解に苦しむところです。
その分、能力勝負の旧司法試験と比べると、
仮に合格者数が同じでも
合格に必要とされる能力(特に法的知識)の水準は
低下すると思われます。
#論文試験の問題自体は、新司法試験の方が、
#内容的に実務に近い問題なので、
#受験界の用語で言うところの
#「論点抽出能力」は「あっちの試験(=新試験)」の方が
#上かもしれませんが…。

まぁ、旧試験で鍛えられた人々が数千人ほど
「あっち」に流れているので、
あと数年は、新試験の合格者でも、
びっくりするほどの水準の低下はないかもしれません。

ですが、あと数年して、
旧試験の勉強で鍛えられた法的知識と
新試験の受験資格をロースクールで買うだけの資力とを
併せ持った人々が、あらかた消えてしまった後、
その頃には新試験の合格者が3000人くらいに
増えるという話もあるそうですが、
いったい何百人が二回試験で落ちるのでしょうか。
まぁ、さすがに、日本の法曹界のためには、
遅くともその頃には新司法試験の制度の見直しを
考えてほしいとは思いますが。

もっとも、私自身は、財力要件を満たしていないので、
新司法試験の受験資格はありません。
ですので、実質的にあと3年で廃止される旧司法試験に
合格しなければなりません。
#旧司法試験の受験資格はある。しかも1次試験免除!
#まぁ、1次試験免除有資格者なんて、
#日本人だけで数千万人いるけど。

つうか、仮に新試験の財力要件を満たしていたとしても、
この歳でロースクールで弁護士資格を買うと、
仕事にあぶれる、という噂もあるでしょう。
#厳密には、ロースクールで買えるのは、
#弁護士資格ではなく、
#新司法試験の受験資格だけど…。

現行60期(「現60期」とか「旧60期」という表記もみられます)
旧60期(「現行60期」とか「現60期」という表記もみられます)の
方々や新1期 新60期の人々の、
弁護士事務所などへの就職事情は相当厳しいらしいです。
いよいよ弁護士資格を有する失業者とか
出てくるかもしれません。

世の中には、法曹有資格者の数を増やせば、
それだけ弁護士が増えると単純に考える人もいるようです。
ですが、「産業としての弁護士業」の市場規模は
無限大ではなく、その伸び率もたぶん
日本のGDPの伸び率よりちょっと高い程度でしょう。
#この「ちょっと高い」というのが、
#いわゆる「社会の法化」の分です。

にもかかわらず、法曹有資格者を増やすために
司法試験合格者を大幅に増やそうということになり、
合格者の大幅増と合格者の質の維持との両立のために
司法試験の受験資格に
(ロースクール修了という)財力要件を設けることとなりました。
#個人的には、財力要件は質の維持のためには
#逆効果と思います。

「産業としての弁護士業」などという表現には
抵抗のある方も、いらっしゃるかもしれません。
ですが、弁護士の仕事には、
コストに見合う報酬が得られる仕事と、
そうではない仕事(弁護士としての社会的責任ないし
職業倫理からほとんどボランティアとして引き受ける仕事)
とがあるようです。
#非常に残念なことに、これは伝聞です。
弁護士といえども生身の人間である以上は、
霞を食べて生きているのでもなければ、
光合成によって必要な栄養素を生成しているのでも
ないでしょう。
ゆえに、弁護士という、それ自体が
食料生産に直接には結びつかぬ仕事をして生きていくには、
生活に必要な物を買うだけの貨幣を
仕事の報酬として得る必要があります。
ゆえに、ある社会の中で生存しうる弁護士の数は、
当該社会の中で支払われる
弁護士報酬(からコストを控除した額)の総額を
弁護士一人が生存するのに必要な金額で
割って得られる数値を超えることはありません。
#実際には、弁護士間の富の偏在や、
#弁護士の被扶養者の存在などから、
#この数値を大幅に下回る数の弁護士しか、
#社会に存在することはできません。

したがって、社会に存在しうる弁護士の数は、
コストに見合う報酬が得られる仕事の量(報酬額)の
総和によって制約されます。

一方、弁護士が足りないと言う人の多くは、
弁護士がボランティアとして引き受ける仕事も含めた
弁護士の仕事の量(手間)の総和を
弁護士の人数(ないし事務処理能力の総和)で割った
弁護士一人当たりの仕事量で考えているように思えます。
#もちろん、それぞれの弁護士の抱える仕事量には
#個人差がありますが…。

でも、弁護士が増えすぎて、
弁護士一人当たりの「金になる仕事」が減ると、
ちょっとでも黒字になる仕事を少しずつ集めて
生きていかねばならず、
そのために忙しくて、ボランティア仕事なんて、
引き受ける余裕がなくなるように思えます。
あるいは、そう思うのは、私だけでしょうか?
#アメリカのジョーク?にある、
#交通事故の被害者を乗せた救急車を
#弁護士が走って追いかける、という話を想起されたい。

アメリカにあれだけ多くの弁護士が
「棲息」できるのは、懲罰的賠償で、
勝訴原告が実損害額をはるかに上回る額の賠償を得て、
その差額から弁護士が高額の報酬を得られるからでしょう。
#あるいは、救急車を追いかけて、がめつく稼ぐから?
ですが、日本では、加害者に過酷な責任を負わせない、
との考え方から、民事賠償の額は、
基本的には被害者の損害を超えることはありません。
#精神的苦痛に対する慰謝料請求が認められれば、
#賠償+慰謝料で、経済的損失を超えることは
#あるかもしれませんが。
ですから、個人の提起する民事訴訟だと、
一部の例外を除き、依頼人の弁護士への報酬支払能力は
かなり厳しいものでしょう。
#コストと比較すると、弁護士のボランティアかも?
よって、弁護士にとって、
コストに見合う報酬が得られる仕事とは、
大抵の場合は企業法務になると思います。
#あとは、金持ちの遺産相続がらみの「臨時収入」と、
#(一般的な相場として)30分5000円の法律相談。
#でも法律相談の場合は、訴訟まで行くと、
#大抵はボランティアでは?
そういえば、弁護士を増やそうと、
最も熱心に言ってる人々には、
企業法務の弁護士報酬を支払う側の人々が多い
ような気がします。

単純に法曹有資格者を増やせばいい、と
考えている人々には、
こういったところにまで考えをまわしてほしいものです。
#このところ、「産業としての弁護士業」の
#市場規模の話が中心になりましたが、
#裁判官と検察官の人数は、日本国の財政状況により
#制約されていることを付言しておきます。

末筆ながら、司法修習とは何ぞや、との説明に代えて、
裁判所のホームページの中の司法研修所の項目への
リンクを張ります。
ちなみに、司法修習の年数は、
数年前までは2年間だったのですが、
その後、合格者増と司法修習の財政負担の抑制との
両立のために1年6月に短縮されました。
さらに、旧司法試験合格者は1年4月、
新試験の合格者は1年とされました。
#旧試験合格者の修習が1年4月になったのは、
現行60期 旧60期からでしたか?

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各種サイトを見たところでは、
「現行60期」「新1期」という表記よりも、
「旧60期」「新60期」という表記の方が
一般的みたいなので、
表記を一部変更しました。
なお、新60期の二回試験の結果については、
http://murase.yasuichi.com/zakkan/2007/12/shin60ki.html
に書きました。

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このブログ記事について

このページは、村瀬 泰一が2007年9月 4日 00:26に書いたブログ記事です。

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